›7 11, 2004

小川洋子『博士の愛した数式』★★★☆☆

[bk1]
 この感想文という奴は、ブログに移ってくる前にサイトの1コンテンツとして書いていたのですが、そちらの方は人に見せるというより自分の記録、それもどんなにつまらなかったものでもリストに記載して、見返して悦に浸る、そして大晦日にはそれを元に1年を締めくくるという自分史的なものでした。

 こちらの方に移って来るにあたって、その感想文は書き続けるにせよ、公開するべきものではないのではないか、と考えました。
 それでも載せることにしたのは、ぶっちゃけMTはリストを自動で作ってくれて楽だから、だったりするのは小さい声でとどめておいて。
 えぇと、他のコンテンツだけだと、読んでいる人に「自分が何をやりたい奴」なのかわからなくなってしまうかな、という思いがあったからなのです。別に検討していれば生きていける人間じゃないのです、ワタクシ。
 本質的には「作品」や「ものづくり」ということが大好きなのです。
 いや、でも漫画や映画の話題で一応そこら辺はおさえているような気がしてきたので、もうこれ以上考えないようにします。

 前振りが長くなりましたが、『博士の愛した数式』です。
 この本は去年の今頃か、「ダ・ヴィンチ」で「読め本」ベストか何かになったから読もうと思ったのだと記憶しています。
 80分しか新しい記憶を保てない数学の博士。変わらずあるのは事故の前の記憶のみ。
 設定だけで涙だらだらな物語に思えますが、そうでもありませんでした。切ないとか、悲しいとか、そういった雰囲気は殆ど無く、強く伝わってくるのは博士の数学に対する愛と、子供に対する愛。子供の頃に、田舎のお爺ちゃんちへ遊びに行った、そんな暖かさの漂う作品です。
 この本で私の胸に一番入ってきたのは、多分多くの感動した人たちとは違っています。それは高校中退後、一人で息子を支えてきた、一面だけ見れば学のない主人公が、数学というものにあそこまで真摯になれるのだ、ということなのです。
 ありもしないと思っていた扉が博士によって開かれ、博士によってその向こうへ入り、そしてそれが自分の一部となる。
 後半の彼女の受け答えを見ていると、胸が透きます。
 一晩経つと家政婦である自分のことも忘れてしまう博士が、いつも数学の話をしてくる。それに対して彼女は、いつしか数学という言葉で返すようになるのです。
 彼女が博士の家政婦に選ばれて良かったと、本当に思います。
 でも、あなただってそうなれるでしょう? というメッセージを、私は受け取りました。

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